宇宙シロクマ

Tuscan Blue's blog

髑髏城の七人 Season月 下弦の月 千穐楽 2月21日(水)感想

劇団☆新感線 

作:中島かずき 演出:いのうえひでのり

捨之介     宮野真守

天魔王     鈴木拡樹 

無界屋蘭兵衛  廣瀬智紀

兵庫      木村了 

霧丸      松岡広大 

極楽太夫    羽野晶紀 

狸穴二郎衛門  千葉哲也

http://www.tbs.co.jp/stagearound/tsukidokuro/cast/kagen.html 

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心を髑髏城においてきてしまったので、今のわたしは抜け殻です。

 

でも、よく考えてみると、初めて下弦を見た夜から、心はおいてきたままだったようです。

ブログを読み返してみたら、書いてありました。

 

「見たくて見たくて、とても苦しい。

 

 心をおいてきてしまったような気分」

 

……と。

 

 

心がないと、苦しいのです。 

 

息ができない。

 

苦しくてしょうがなかったので、少しでも楽になるために、なんども登城したのだと思います。

 

苦しくなって、登城して、つかの間、心を手に入れて、やっと呼吸ができるようになって……幸せな気分でふわふわと家に帰ります。

 

でも、心は髑髏城においてきたままなので、またしばらくすると苦しくなって、登城して……そのくり返しでした。

 

それなのに、もう、下弦の髑髏城は消えてしまったのです。

 

夢のように、あとかたもなく……

 

心をなくしたままで、一体、どうすればいいのでしょう。

 

 

毎日、泣いてばかりで、自分でもびっくりしてしまいます。

 

これまでこんなに泣いたことはなかったので、戸惑うばかりです。

 

ドクロス……

ここまでひどい髑髏ロスになるとは思っていませんでした。

 

こんなに好きになっていたことに、千穐楽が終わるまで気づいていなかったからです。

 

にぶいシロクマなのです……ʕ ˃̣̣̥ᴥ˂̣̣̥ ʔ

  

 

【 目次 】

 

【ここからはネタバレを含みます】 

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下弦フェス

 

 

2017年12月27日(水)────

 

前期の最終公演を見て感激したわたしは、レポに書きました。

 

「初回の11月27日が100とすれば、12月27日は200。千穐楽には400になっているのではないかと思います」

 

そして、2018年2月21日(水)────

 

千穐楽は、予想をはるかに越えて、400どころか4,000、40,000……

 

いえ、数値ではかることなどできないほど、最高の舞台でした。

 

下弦の月を見上げてきてよかった。

 

応援してきてよかった。

 

みんな大好き……!!!

 

観劇中、そんな思いで胸がいっぱいでした。

 

いのうえひでのりさん、中島かずきさん、

キャストとスタッフのみなさんに、心から感謝します。

Season月を、下弦の月を、どうもありがとうございます。

 

この3か月間、幸せでした。

 

観劇して、 

感動して、 

ブログに書いて、 

みんなに広めて、 

また観たくなってチケットを1枚買って、 

観劇して、 

また感動して、 

ブログに書いて……そのくり返しでした。

 

 

「感動したから次のチケットをローチケで買う」ことができたのは、とても健全で、観劇のあるべき姿だったと思います。

 

先行や発売日だけで完売してしまうよりも、このほうが観劇人口が増えるのではないでしょうか。

 

もし初日前に完売していたら、わたしのブログも1ページだけで終わっていたはずですから。

 

わたしのまわりの友人知人、フォロワーさんたちも、観劇することはなかったでしょう。

 

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主要キャスト全員、板の上で見たのは初めてでしたが、すぐにその凄さに気づきました。

 

そういう方も多かったのではないかと思います。

 

下弦の実力は本物でしたので、必要だったのは評判が広まることだけでした。

 

「一度見たら、きっとみんなわかってくれるはず」

 

前期にそう予想した通り、公演回数が増すにつれて、噂が噂をよんで人気が高まっていきました。

 

千穐楽の当日券には、250人以上がならんでいたそうです。

 

花鳥風月で、こんなに当日券の列が長くなったのは初めてのことです。

 

(ステージアラウンド東京は、周囲になにもない関東荒野にあるので、一般的な劇場よりも当日券にならぶハードルが高いのです。「観劇したい!」という情熱が必要な劇場です)

 

(街中にある劇場なら、たとえ入場できなくても予定を変更して買い物や映画などに行くこともできるので、ちょっと興味がある程度でもならぶことができます)

 

(しかし、ゆりかもめに乗って、もしくは豊洲から荒野を歩いて、はるばるたどり着いた髑髏城に入れないと、心が折れます)

 

(しかも、下弦の公演は寒風吹きすさぶ真冬でした。当日券に挑戦するには、かなりの覚悟が必要だったのです……)

 

「内容がいいからお客様が増えていく」というのは、将来性があって、どの業界においても理想的なかたちなのではないかと思います。

 

下弦のみなさんが力をあわせて、より良い舞台にしていったから、それが観客にも伝わったのだと思います。

 

その結果、リピーターが増加して、潜在的な観客の興味も引いたのでしょう。

 

キャストがブログやTwitterで発信しつづけたことも、観客を巻きこんで大きな波を生みだす効果があったと思います。

 

ネットの海では毎日リアルタイムで、下弦帰りの人々の感想やキャストの声が直接聞けました。

 

舞台を見に行く前も楽しく、見たらもちろん楽しく、見終わったあともさらに楽しい……という楽しさの三乗。

 

ネットは24時間眠らずに、下弦の評判を広げていきました。

 

観劇した人から次に観劇する人へ、そして潜在的な観客へとバトンをつないでいったのです。

 

豊洲にいる4時間だけでなく、24時間ライブをしているようなものでした。

 

Season月、下弦フェス。

 

もうこんなことは二度とないと思うくらい、楽しいフェスでした。

 

寒波にも気づかなかったほどの、熱い冬。

 

オリンピックも知らないうちに始まって終わっていました。

 

さらに、この冬は、一度も風邪をひかなかったのです。

 

登城できなくなるから体調管理に気をつけていたということもありますが、ウィルスがつけいるすきがなかったほど「Season月」に熱中していたのだと思います。

 

「下弦」という熱病にかかっていたのかもしれません。

 

せつなくて、幸せな冬でした。

 

 

 

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記憶のかけら

 

 

わたしは、目で映像として記憶するほうがたくさん憶えられるので、観劇中にメモをとることはありません。

 

精度の低い記憶力なのですが、手で文字を書くのが遅いので、記憶したほうが早いのです。

 

帰宅してから、印象に残った断片をさっとPCに打ちこんでいました。

 

そんな記憶のかけらが、まだたくさん残っています。

 

レポを書いていない2月7日と10日の断片もファイルになっています。

 

できるだけ記憶が鮮明なうちに、ふり返りつつ、ブログに書いていけたら……と思っています。

 

 

 

千穐楽に寄せて

 

 

このブログをはじめた主な目的は、「下弦を知らない人に伝える」ことでしたので、できるだけさらっと楽しく読めるように、いつも短くカットしていました。

 

ぜんぶ書くと長くなってしまうので、読みにくいと思ったからです。

 

でも、今回は千穐楽レポです。

 

「ぜんぶ読みたい」という声をいくつかいただいたので、下弦を愛するコアなみなさんに向けて、できるだけ憶えているかぎりのことを書いておこうと思います。

 

一幕から、お芝居の流れにそって書いていきますね。

 

千穐楽にいけなかった方が、少しでも想像して楽しめるように。

 

そして、あの日、

 

髑髏城にいたあなたとわたしが、

 

あとで読み返して、

 

懐かしく思い出せるように……

 

 

 

下弦の月の神さま

 

 

チケットの神さまが微笑んでくれたので、千穐楽はセンターブロックの10列前後という視界クリアな席でした。

 

しかも、上手寄りです。

 

(天魔王は上手に立つことが多いので、わたしはどちらかというと上手が好きでした)

 

(そして偶然にも、上手率がとても高かったのです)

 

ふしぎなものですね……

 

「天をよく見たいです!」という願いがチケットの神さまにも通じたのでしょうか。

 

 

大好きな天扇のシーンも、3公演ぶりに最後まで見ることができました。

 

(しかも、まさかのヴァージョンで…!)

 

下弦の月の神さまが、最後にごほうびをくれたのかもしれません。 

 

 

 

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理想の天

 

 

鈴木拡樹さんの天魔王は、わたしの理想の天です。

 

今までも、そしてこれからも。

 

 

初めて下弦を見た夜から、鈴木さんの演技の凄いところをいろいろと書いてきましたが、いちばん凄いと思っているのは、その進化スピードです。

 

天魔王の演技や殺陣を見て、「ここがもう少しこうだったら良いのに……」と思うことが何度かあったのですが、次に見たときには必ず改善されていたのです。

 

しかも、想像を越えるすばらしさで。

 

わたしは数カ月おきに観劇していたわけではありません。

 

長くて2週間後、短いときは数日後に彼を見ていました。

 

そんな短期間であるにもかかわらず、毎回、はっと目を見開いてしまうほど良くなっていたのです。

 

日々、鍛錬をかさねて、舞台で天魔王として生きて、進化していったのだと思います。

 

なんども驚かされて、なんども感動しました。

 

ロングラン公演だったのもよかったのかもしれません。

 

良い環境で、ひとつの役に没頭できたので、才能がさらに大きく開花したのではないかと思います。

 

そして、いつも楽しそうに演じているのが印象的でした。

 

 

公演2日目である11月27日に初めて見たとき、鈴木さんはすでに見ごたえのある天魔王を演じていました。

 

ネットでは、

「完成度が高いので満足。逆に、これ以上はないだろうから一度見れば充分かもしれない」

という感想もあったほどです。

 

(下弦という作品全体についても、そういう感想が散見されました。)

 

 

ところが、とんでもない!

 

初回と千穐楽では、完全に別次元の天魔王でした。

 

(そしてもちろん、別次元の下弦になっていたのです!)

 

 

この3か月、鈴木天魔は、どんどんどんどんレベルを上げて、天魔王として進化していきました。

 

初回の「高い完成度」は、2回目、12月13日に見たときには軽々と突き抜けていました。

 

見るたびに新鮮で、発見がありました。

 

12月27日、前期の最終公演では、震えるほど圧倒されました。

 

初回が100とすれば、すでに200になっていて、後期への期待がふくらむばかりだったのです。

 

 

後期がはじまった1月には、さまざまな試みがあり、多彩な変化をとげていきました。

 

今思うと、マグマの胎動だったのかもしれません。

 

あの変化の流れをリアルタイムで体感できた人は幸運です。

 

1月29日の時点で、完全に、理想の天になっていました。

 

 

理想の天魔王が髑髏城で生き生きと動きまわっていた2月は……最高の月でした。

 

永遠に見ていたいと思ったほどです。

 

 

そして、

ついにやってきてしまった2月21日────

 

千穐楽の下弦天は、初めて見たときには想像もつかなかったほどの高みに到達していたのです。

 

ほんとうに非の打ちどころがない、すばらしい演技でした。

 

 

鈴木拡樹さんがこれほど凄い役者でなければ、わたしはこんなに何度も登城しなかったと思います。

 

これまでの髑髏シリーズを見たときのように、一回だけで終えていたでしょう。

 

同じ演目をこんなに何回も見たのは、人生で初めてのことです。

 

それほど鈴木天魔王には、ずっと見ていたくなるような、不思議な魅力がありました。

 

 

 

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天魔王インタビュー

 

 

理想の天魔王を演じた鈴木拡樹さんには、お聞きしたいことがたくさんあります。

 

ジェームズ・リプトンの「アクターズ・スタジオ・インタビュー」のように、演技や演出についてのお話が聞きたいのです。

 

「初役である天魔王を演じきった今、どういう心境でしょうか」

 

「お稽古期間を入れて5カ月ものあいだ天魔王と共に過ごしてきたわけですが、その間の演技の変遷について、ふり返っていただけますか」

 

「今のあなたにとって、天魔王はどういう存在でしょうか」

 

そういう総括的なことも知りたいのですが、

 

できることなら、

 

「後期、×月×日の、二幕における『××××』の演技は、前期までの演技とは趣旨が違っていました。そこにはどういう心境の変化があったのでしょうか」

 

「そして、なぜその次の公演日、○日には、その演技を完全に変えたのでしょうか」

 

「○日のその演技は、とても斬新ですばらしいものでした」

 

「しかし、その次の次の公演日、△日には、また×日と同じヴァージョンにもどしてしまいましたね。その意図するところを聞かせていただけますか」

 

……というような質問をしてみたいです。

 

 

え?

 

 

マニアックすぎますか、そうですか。

 

 

ディープな下弦天マニアがターゲットの媒体があれば、お仕事依頼をお待ちしておりますʕ^ᴥ^ʔฅ

 

 

 

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64回目の天魔王

 

 

千穐楽にあらわれるのは、たったひとりの天魔王です。

 

マチネとソワレがあるわけではないので、ふたつの演技プランをすることはできません。

 

「きょうの天魔王が、鈴木拡樹さんが一番好きな、あるいは一番演じたい、見せたい天魔王なのかも……」

 

と思って、少し緊張しながらも期待していました。

 

 

わたしはこれまで、鈴木天の演技について「あれが好き」とか「これは嫌い」とかいろいろ書いてきましたが、基本的にはみんな好きです。

 

(「嫌い」といっても、あくまで「好き」をベースにした「嫌い」なのです)

 

そして、最後の下弦天も、大好きな天でした。

 

鈴木拡樹さんが自由に演じていたからだと思います。 

間合いをたっぷりとった、余裕のある演技でした。

 

鈴木さんは、「間」がとてもいいのです。

 

間合いでお芝居を「魅せる」タイプの役者さんです。

 

ところが、いつも舞台全体のバランスを考えた芝居をするので、共演者が間合いを詰めてくるときは、相手にあわせて引きます。

 

相手がどのような演技をしても、ぜんぶ受けとめて、丁寧に返してあげるのです。

 

鈴木さんと共演する方は、安心してのびのびと自由に動けるのではないかと思います。

なにをやっても、彼はすべて受けとめてくれるからです。

あくまで自然に、さりげなく……

 

鈴木さんは、下弦のバランサーだったのです。

 

たとえば、一幕が長くなって時間が押してしまったときなど、バランサーとしての彼が活躍します。

 

(天魔王は一幕にはあまり登場しません。メインは二幕です)

 

鈴木さんは、たとえ自分の見せ場であっても芝居を変えて、観客にはわからないような高度な方法で、セリフ回しを早くするなどして、自分の持ち時間を短縮させてしまうのです。

「下弦」という舞台が、終演時間までにうまく着地できるように。

 

鈴木天の演技には説得力がありますし、芝居をどう変えても魅力的なのは変わらないので、ほとんどの人がそのことには気づかないと思います。

 

彼は本当に、空気を読んで全体を調整するのが上手なのです。

 

観客にも気づかれないくらい自然にバランスをとるさまは、芸術的です。

 

天性のバランサーであるといえましょう。

 

舞台全体のバランスがよくて、調整する必要がないときには、鈴木さんはとても自由な演技をします。

 

そういうときの天魔王が、わたしはいちばん好きでした。

 

千穐楽もそうでした。

 

キャスト全員の息がぴったりとあっていたからだと思います。

 

「下弦のバランサー」という重責から少し解放された鈴木さんは、ご自分の演技に集中できたのではないかと思います。

 

じっくりと丁寧に演じていて、セリフ回しにも情感がこもっていました。

 

生き生きと芝居をする姿は、いっそう楽しそうに見えました。

 

天が楽しそうだと、わたしもうれしくなるのです。

 

最後に、最高の天魔王を見ることができて、とてもうれしかったです。

 

 

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【 第一幕  

 

 

天魔王誕生

 

 

「六欲天を、ご存知か」

 

 

このひとことで、千穐楽の成功を確信しました。

 

安土城天守閣に「人の男」があらわれた瞬間から、空気の密度がぎゅっと濃くなったのです。

 

無敵の鎧を手にする前から、人の男は覇気に満ちていました。

 

セリフには彼にとっての「真実」がこめられていて、価値観や信念がつたわってきます。

これまでの彼の人生さえも、走馬灯のように浮かんで見えました。

 

鈴木拡樹さんが演じる人の男は、決してまばたきをしません。

ずっと目を見開いたままでいます。

後ろを向いたときなど、観客の視界に入らない瞬間に、まばたきしているのだと思います。

 

ところが千穐楽では、最初から最後まで、まばたきの気配をまったく感じませんでした。

まるで世界のすべてを一瞬たりとも逃さないとでもいうように、目を見開いていたのです。

それが人の男の得体のしれない存在感を、いっそう大きくしていました。

 

 (※もちろん、どこかでまばたきをしていたとは思いますが、そうとは感じさせない気迫があったということです)

 

 

殺陣も凄かった。

 

人の男の殺陣は、短い時間で彼の能力の高さをあますところなく見せつける、良い構成をしています。

変化のある斬り方で、複雑な性格までも表現しているのではないかと思います。

 

千穐楽は特に、太刀筋が丁寧で美しく、斬れ味も鋭かった。

 

徳川兵の最後のひとりを斬った瞬間など、最高でした。

 

剣を左手に持ちかえて回転しながら斬るので、長い黒髪が風のようにひるがえります。

 

ひざまずき、

左手に高く掲げられた剣、

落とした視線、

強い意志が見える背中に流れる長い髪……

 

 

残心。

 

 

まるで一枚の絵のようでした。

 

 

 

「これだ……これこそが天魔の鎧」

 

「これで今日から俺が……いや、私が第六天魔王だ」

 

 

人の男の一人称は「俺」なのですが、天魔王となった瞬間、「私」に変わります。

そして声も、立ち居ふるまいも、一変するのです。

 

その変化の瞬間の芝居がいつも見事なのです。

ああ、この男は今、天魔王になったのだ、ということが電撃のように伝わってきます。

 

 

六欲天ダンスも凄味がありました。

天魔王も鎧ダンサーズも、いつにも増して激しく、いい踊りでした。

 

天魔王になったばかりの男の、「天」に焦がれる気持ちがあざやかに表現されていたのです。

 

「天」への想いがあまりに熱く、激しくて、ラスト近くでは長い髪が乱れてしまい、襟飾りに引っかかってしまったほどです。

 

 

「天魔王誕生」を締めくくるのは、迫力ある決め台詞です。

 

 

 「髑髏城で待っている……!」

 

 

まだ城もなく、2万の軍勢もいない天魔王の、未来への宣戦布告です。

 

当時は、はたから見れば「天魔王を自称している元小姓」にすぎなかったというのに、この自信。

我こそが天に選ばれし者であり、天下を手中におさめることができると信じていたのでしょう。

 

無敵の鎧を手に入れて、野心に燃えているのがわかる最高のシーンです。

 

 

 

8年後……

 

 

「髑髏城で待っている!」

 

 

魂の叫びと共にスクリーンが閉じていき、客席が回転しはじめます。

8年後の関東荒野に舞台がうつるのです。

 

そして最初に登場するのが、いん平さんです。(インディ高橋さん)

身ひとつで、いかにも頼りない様子で、何かから逃げるように走ってきます。

 

最初に登場するのが「しいたげられた農民」の彼だということには、意味があるはずです。

1月31日ソワレのレポにも書きましたが、いん平さんは「声なき多数派」の象徴であり、月髑髏の影の主役のひとりだと思います。

 

 

前々回あたりに、「髑髏党に追われて逃げ惑う農民たちの中に、廣瀬智紀さんがいる」という話を聞いて、それらしき人物を見つけました。

上手からあらわれて、果敢にも髑髏党員の槍を受けて戦い、下手に逃げていく背の高い男性です。

たしかに農民にしてはプロポーションが良すぎるので、目立ちます。

 

でも、最後まで廣瀬蘭のおもかげが見つけられませんでした。

もしご本人だとしたら凄い演技力だと思いました。

 

髑髏党幹部の剣布と爪月が、どこかに霧丸が隠れていないかと、鋭い眼光で観客をにらみつけてまわります。(肘井美佳さん、安田栄徳さん)

 

センターブロックの前方席だと目があうらしく、舞台の上と下でうなずきあったり、「ここにはいません!」と首をふる人もいるそうです。

おもしろいですねʕ^ᴥ^ʔฅ  

 

 

 

無界屋顔見世

 

 

捨之介と無界屋ガールズ、旅人たちのダンスは、一幕の華やかな見せ場のひとつです。

さまざまな顔をもつ下弦の、明るい側面の世界観がよく表現されています。

 

あれで観客の心をつかみ、一気に無界屋へと連れていくのです。

 

音楽やダンス自体も楽しくて、宮野捨之介の粋でおおらかな性格がつたわってきます。

 

千穐楽の捨之介は、手拍子をする前に、ダンサーズをふり向いて「いくぞ!」と言っていました。

この気合からもわかるように、楽日の捨之介は本当に熱かったのです。

 

捨之介が観客にむかって手拍子をうながすところでは、大きな手拍子がわきました。

いかにも千穐楽!という楽しい光景でした。

 

 

 

荒野の再会

 

 

一幕で天魔王が登場するのは、冒頭の「天魔王誕生」と、捨天蘭が再会する荒野のシーンのみです。

 

時間にすれば短いのですが、凄まじい存在感があるので、長く登場しているように錯覚する方も多いのではないでしょうか。

 

 

捨天蘭の殺陣は、回を追うごとに練れていき、千穐楽でも迫力がありました。

 

無敵の鎧を身につけた天魔王は、捨之介の刀を腕で受けます。

 

「効かぬ!」「効かぬ!」「効かぬわ!」

 

剣を抜かずに、すべての攻撃を撃退する天魔王の声は、うれしそうに弾んでいます。

無敵の鎧を見せつけているのでしょうね。

いならぶ髑髏党の部下たちも、主の強さを目の当たりにして、さらに心酔することでしょう。

 

そして自分自身でも、愉しくてしょうがない。

その証拠に、いっこうに剣を抜こうとしません。

「真に強い者には剣はいらない」とでもいうかのように。

まるで剣を極めすぎて無刀にいたった剣豪のようです。

無刀の境地……

 

狸穴二郎衛門が鉄砲を撃ちながら登場すると、宮野捨と廣瀬蘭は、すぐに家康だと気づくわかりやすい演技をします。

 

「天魔王だけ気づいていないのはなぜ?」という感想を見かけたことがあるのですが、もちろん、天魔王も気づいています。

織田信長の小姓だったのですから、当然、家康とは面識があるのです。

 

以前から、鈴木天は「家康に気づく演技」をしていました。

ただ、狸穴にセリフがあるシーンなので、控えめだったのだと思います。

鈴木天は、共演者の見せ場のじゃまになるようなことはしないのです。

 

わたしが見た公演では、2月7日のマチネ以来、(控えめでありつつも)気づいたことが誰にでも伝わるであろう演技に変わりました。

 

家康に気づいてはいるけれども、好戦的な天魔王は、あえて戦おうとしているのです。

「駿府の狸が妙な変装をして、笑止千万」とでも思っているのでしょう。

家康を眺めながら、腹黒く、愉快そうに、にやにやと嗤っています。 

 

無敵の鎧に鉄砲は効きません。

捨之介と蘭兵衛を軽々と撃退したことで、天魔王はさらに自信を深めています。

「狸と遊んでやろう」

と、おもしろがって身を乗りだすのですが、堅実な生駒に止められるというわけです。(中谷さとみさん)

 

強くて堂々としている天魔王には、余裕が感じられました。

 

 

 

捨之介と贋鉄斎

(中村まことさん) 

 

刀鍛冶、贋鉄斎の部屋では、毎回、捨之介とのアドリブ合戦がくりひろげられていました。

初期のころは割と丁寧な進行だったのですが、後期になるにつれてネタ数が増え、尺も長くなっていったのです。

 

千穐楽では、初めてのネタが目を引きました。

宮野真守さんが公演後におもしろい裏話をしてくださったので、別記事にまとめましたʕ^ᴥ^ʔฅ 💕

 

 

 

白い曼殊沙華

 

 

一幕ラストは、黄泉の笛の殺陣。

無界屋蘭兵衛、最大の見せ場です。

 

大きな拍手をおくりながら、蘭兵衛の華麗なジャンプを見るのもこれで終わりかと思うと、感慨深かったです。

 

廣瀬蘭の殺陣は、初見ではちょっと心配になったのですが、日に日に上達していってすばらしかったです。

後期になると、11月からはくらべものにならないほどの進化をとげていました。

 

そのため一幕終了後は、いつも蘭の印象が強く残っていました。

頭の中では、羽野太夫の美しい歌声が流れて、蘭が飛びながら斬りまくっているのです。

 

廣瀬蘭のすごいところは、殺陣も芝居も上達する一方だったということ。

一度も「前のほうがよかった」と思ったことはありませんでした。

5カ月ものあいだ、一心に蘭を生き抜いた成果なのでしょう。

 

蘭が運命的なはまり役だったのだと思います。

公演を経るごとに、人気も上昇する一方でした。

 

  

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【 第二幕 】

 

 

口説き 

 

 

『天と蘭

 

 

廣瀬蘭は割と能動的で自由な芝居をするタイプなので、いつもは鈴木天が彼にあわせてあげることが多かったのではないかと思います。

 

廣瀬蘭がどんな変化球を投げても、鈴木天はぜんぶ受けとめて返してくれるので、廣瀬蘭はのびのびと演技できたのではないでしょうか。

 

しかし千穐楽では、おふたりの間合いがぴったりあっていて、奇跡のように美しい芝居になっていました。

 

鈴木天は間合いをいつもよりたっぷりとっていたので、セリフもいっそう生きていました。

感情がこもっていて、余裕を楽しみながら話しているようでした。

 

口説きにもより説得力があり、蘭が陥落してしまうのも納得の展開だったと思います。

 

 

『赤い手

 

 

天魔王の手の甲は、赤黒くただれたような色をしています。

千穐楽では、手のひら側も赤黒く塗られていました。

 

やはり本能寺での火傷の跡なのでしょうか?

もしかすると、燃えている柱を、手でつかんだのかもしれません。

 

  

『左頬の傷

 

 

蘭丸が斬りつけたときに、天魔王の左頬に傷が入るシーンがあります。

仮面で顔を隠した瞬間に、自分で赤い傷跡をつけるという早業です。

 

千穐楽でも、耳から口元にかけて、とてもきれいな傷が入っていました。

大成功です!

 

強めに入った刀傷なので、きっと最後列の席からもよく見えたのではないでしょうか。

  

 

『「すてのすけ!?」

 

 

蘭丸と霧丸が戦っているあいだ、天魔王は上手奥の段上で、観客に背をむけて立っています。

ふたりを眺めながら、小気味よさそうに嘲笑っているのです。

 

ところが、霧丸が捨之介の名を口にしたとたん、大きく反応します。

 

ダイナミックですばらしい反応なのですが、ちょっとおもしろい動きなのです。

 

段上で、上手から下手にむかって大きく横移動しながら、背中をそらせて腕をのばして霧丸を指さし、

 

 

「すてのすけ!?(←インパクトのある発音)

 

 

(前のめりな早口で→)奴に何かたくしているのか?」

 

 

と言うのです。

 

驚きとあせりが同時に噴き出し、天魔王の人間らしい性格がむきだしになります。

とてもいいセリフ回しなのです。

 

あの大げさな動きも大好き。

見たら、まねしたくなると思います。

 

わたしはもちろん、やったことがあります。

 

 

ฅʕ•ᴥ•ʔ「すてのすけ!?」💨

 

 

 

『コミカル要素チェック

 

 

(1)「ここが髑髏城!ここが小田原城!猿が陣を敷くとすれば?(※)ここ!石垣山だな」

 

最後に(※)に入ったのは、

「ぁは~~い!」でした。

客席から笑い声があがっていました。

 

(2)「さて、ど~かな~?」

 

語尾が、ほんのちょっと歌う程度でした。

 

(3)「殺し合いがよく似合う」

 

「殺し合いがよく似合うぅ」くらい。

そこまで「うぅぅぅぅ💓」ではなかった。

 

(4) 地下牢の鉄格子を扇でカンカンカンカンカンカン!と叩いたあとは……

 

男っぽくてかっこいい「よう」でした。

この声、大好き。

 

 

『エゲレスからの手紙

 

 

「地図を……書き直さねばならんな」

 

声も表情も、すごくよかったです! 

 

このセリフには初見時から思い入れがあったので、最高の演技をスクリーンが閉じる瞬間まで見ることができて、とてもうれしかったです。

 

 

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バランサー

 

エゲレスからの手紙が届くシーンで、鈴木拡樹さんは、毎回、すごくおもしろくて、興味深い演技をしてくれます。

 

 

天魔王は、生駒が手紙をもってきたことに気づいてハッとしますが、蘭丸には気づかれないように感情を隠そうとします。

そして、蘭丸の機嫌をとるように笑顔を作り、

「すまぬが先に……あとで行く」

と言って、退場させようとします。

 

夢見酒を飲んでフラフラしている蘭丸が階段につまずいたり、壁にぶつかったりすると、すかさず「気をつけろよ」と、やさしく声をかけてあげたりもします。

 

作り笑いをしたり、指先で軽くバイバイしたりして蘭丸を見送ったあとは、一瞬、真顔になりますが、生駒をふり返ったときにはもう、生駒向けの甘い笑顔になっているのです。

 

 

この天魔王は、空気を読んで四方八方に気配りをして、マメです。

おそらく、部下の管理も細かく調整してそうです。

 

そして、天魔王の人心掌握術の基本は、

「相手の好みを理解して、好きな対応をしてあげる」

「相手にあわせて、自分の対応を変える」

ということなのだと思います。

 

女性の部下である生駒と剣布への対応の差からも、それがあきらかです。

 

生駒は夢見る乙女タイプなので、甘い声色と笑顔を作って、やさしく話しかけます。

彼女はそういう対応を好むということを、彼は熟知しているのです。

非常に腹黒い。

 

一方、有能な武人である剣布には、男性の部下と変わらない話し方をします。

おそらく、剣布にとってはそのほうが心地よいということが、彼にはわかっているのでしょう。

 

天魔王は、空気を読んで相手にあわせるのが上手です。

 

でも、読みすぎてしまうため、気苦労も多く、いかにも早死にしそうなのです……

ʕ ˃̣̣̥ᴥ˂̣̣̥ ʔ 

 

 

 

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扇シーン!

 

 

蘭丸「秀吉よりも先につぶさなくてはならない男がいる……来い」

 

天魔王「ああ……(フッ…)」

   (←吐息のようなフッ…)

   「なるほど……」

 

体は上手を向いたままで、顔だけ客席にむける。

頭をやや右肩にかしげた状態で、にやりと微笑み、少し顔を上げつつ「おもしろい」と言う。

ゆっくりと頭を下げながら上目遣いでにらみつける。

扇を素早く広げてパタパタとあおぐ……

(←スクリーンが急ぎ閉じる……)

 

 

こ、これは……ノワール!

 

わたしの大好きなヴァージョン!

 

ふたたび見られるとは……!

 

びっくりして目を見開いてしまいました。

 

少し上をにらみつけながら扇をひらく様子が、恐ろしくも美しいノワール!

 

背後に闇の炎が静かに立ちのぼっていくのが見える!

 

 

1300人の観客の中で、ここまで興奮したのはわたしだけかと思います。

 

なぜなら、これまで、

同じヴァージョンを2回見たことはなかったのですから。

 

最後に、もういちど見ることができて、とってもうれしかったです。

 

 

千穐楽で、もっとも感激した瞬間でした。

 

 

 

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無界屋襲撃

 

 

『三々七拍子&おきり

 

 

荒武者隊のダンスで三々七拍子をするところがあります。 

 

黒平役の原田賢治さんが、2月1日にTwitterで、「三々七拍子をしてくれたお客さんがいてすごく嬉しかった」とツイートしていらっしゃいました。

それならします!と思った方も多かったのではないでしょうか。

 

千穐楽では、客席でも三々七拍子が大きく鳴り響いていました。

 

 

また、恋をして浮かれているおきりが、客席にむかって「あ~~ん💓」とコールして、レスポンスを待つシーンがあります。(樹麗さん)

 

ここは元々、レスポンスが何も返ってこないことによって、浮かれたおきりと周囲のしらけた様子とのギャップをあらわす演出なのではないかと思います。

何も反応がないので、無界屋ガールズがあきれつつもしかたなく、「あーん……」と投げやりに答えてあげるというわけです。

 

実際、客席から返ってきた公演を見たことはなかったのですが、前楽で初めて、「あ~~ん💓」という声が小さく上りました。

 

千穐楽ではさらに「あ~~ん💓」が大きくなったので、おきりは笑顔で「小鳥さんたち、よくできました💓」と、うれしそうでした。

 

観客も、「反応できるところではぜんぶする」という千穐楽モードで、とっても盛り上がりました。

 

 

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『大きな風

 

 

天魔王と蘭丸が無界屋を襲撃している佳境で、服部半蔵と忍群が颯爽とあらわれます。

 

中央に半蔵、上手に天魔王、下手に蘭丸────

 

長いマントがひるがえり、殺気がみなぎる迫力のあるシーンです。

 

このとき、天魔王はマントの右側をおさえて、左側を上に広げるマントさばきをしたのですが、大きくひるがえってダイナミックでした。

 

このマントさばきは19日にも際立っていたのですが、千穐楽もあざやかでした。

 

まるで天魔王の手によって大きな風が起こったかのようでした。

 

 

 

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『家康と半蔵

(千葉哲也さん、安田桃太郎さん)

 

家康が、殺されたおきりに土下座する姿からは、深い気持ちが伝わってきます。

胸を打つ名シーンです。

 

かたわらに立つ半蔵は背をそむけ、気持ちを押し殺すように震えています。

その様子からは、複雑な心境が伝わってきます。

 

半蔵は、本当は、主である家康に頭など下げてほしくはないのです。

それゆえ、土下座しようとした家康をまずは止めようとしたのですが、その意思が強いことをすぐに察し、できませんでした。

 

家康が土下座をしているあいだ、半蔵は、口惜しい胸中を全身ににじませています。

 

主が頭を下げる姿を見てはならないという家来としての心得と、そんな姿を見るのは耐えられないという個人的な思いのあらわれではないかと思います。

 

 

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「生駒の最期」と「捨天決戦」

 

 

19日までとは芝居が変わりました。

最後まで攻めの姿勢の鈴木天です。

 

14日ソワレのように感情をあふれさせて、死んだ生駒に自己を投影させるかのような芝居とは、まったくちがっていました。

 

14日より前の解釈に近いのではないかと思います。

 

千穐楽の天魔王は、苦悶しながら蘭丸に信長の遺言を明かすときまでは、感情をコントロールしようとしていました。

 

そのぶん信長による苦しみと、蘭丸への憎しみが深いように見えました。

 

生駒のなきがらが目に映ってはいても、見てはいませんでした。 

生駒がいる下手の方角を向いていたのは、ほんのわずかの間で、いつもより短かったのです。

すぐに蘭丸に、「お前にいいことを教えてやろう」と言って、うしろを向いてしまいました。

 

生駒に対する冷たさ、というよりも、無関心さのあらわれではないかと思います。

 

天魔王の脳裏をしめるのは、信長のことだけです。

生駒という人間自身には、まるで興味がないようでした。

 

8年前を思い出して、怒りや苦しみ、憎しみなどの負の感情が一気によみがえってきたのでしょうか……

体を震わせていました。

 

たとえ無意識下で生駒への自己投影があったとしても、さほど深くは見えません。

 

そのためでしょうか……

捨天決戦で「天は俺のものだ!」と言うときも、(14日以降のように)天に向かってすがるように左腕をのばすことはありませんでした。

 

泣きそうな顔もしていません。

 

以前のように不敵な笑みを浮かべながら、両腕を広げていく演技にもどっていたのです。

 

 

好みをいえば、わたしはこちらのほうが好きなので、最後の演技がこうなってよかったように思います。

 

こちらのほうが、天魔王の孤独がよく表現されていて、胸を打つのです。

 

 

 

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天魔王の最期

 

 

天魔王の最期については、なんども書いてきました。

これで最後だと思うと、さみしいです……

 

***************************

 

 

捨之介に剣をはねとばされてしまった天魔王は、鋭い視線で彼を見つめます。

 

ところが捨之介は斬ろうとしません。

 

天魔王は衝撃を受けたように目を見開き、小さく首をふって否定します。

 

そしてすぐさま捨之介の刀をつかみ、自分の腹を突いたのです。

 

みずからの肉をつらぬいた刀を、またえぐり出すようにして抜いていくさまが壮絶で、見ているだけでも苦しくなりました。

 

赤黒い血が流れだすのが見えるようでした。

 

 

飛び降りるときは、両腕を少し前にひろげて、目を見開き、天をあおぎながら落ちていきました。

 

前楽では、

あおむけで勢いよく倒れていく体が、天と平行になったとき、嗤っているのがわかりました。

 

捨之介に一矢報いてやったことへの嗤いでしょうか。

すべての結果に満足したのでしょうか。

あるいは、自嘲なのかもしれません。

それとも、矜持の高い天魔王ですから、あえて胸をはって嗤ってみせたのでしょうか……

 

もしかすると、目の前に広がる天を見て、自然に浮かんだ微笑みなのかもしれません。

焦がれ続けた天に還っていくことへの喜びなのかも……

 

 

ところが、千穐楽の表情は、前楽とはちがっていたのです。

 

まぶしい光の中の彼は、嗤ってはいないようでした。

 

どちらかというと、悟ったかのような表情に見えました。

 

あの両腕は、天に向かってさしのべられていたのでしょうか。

 

天を抱いているようでもありました。

 

 

ここで思い出すのは、安土城天守閣で聞いた、人の男の言葉です。

 

 

「価値を知らぬ者に蹂躙されるくらいなら、落ちてしまうがよかろう」

 

 

天魔王の死は、まさにこの通りだったのではないでしょうか。

 

豊臣の軍に下るなど、矜持の高い天魔王にとっては耐えがたい屈辱です。

 

それに、どう転んだとしても、その先には「死」しか待っていません。

むごい殺され方をしたのちは、風化するまで河原にさらされる運命でしょう。

 

まさに、天魔王の価値を知らぬ者に蹂躙されることになってしまいます。

 

それゆえ彼は、落ちていくことを選んだのかもしれません。

 

8年前に宣言した、みずからの信念のままに……

 

 

 

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捨之介と霧丸

 

 

天魔王が落ちていったあとの捨之介は、深い悲しみの中にいました。

 

六天斬りで天魔王からはぎとった鎧のかけらを抱きしめて、しぼりだすような弱々しい声で名前を呼び続けていたのです。

 

ひとりの名は蘭丸。

もうひとりの名は聞きとれません。

おそらく、天魔王の昔の名を呼んでいたのでしょう。

安土時代、三人で過ごしていたころの名を……

 

(天の本名は設定にはありません。それでも名前を呼びたい宮野捨が、あえてはっきりとはわからないようにして呼んでいるのだと思います……)

 

そのまま死んでしまうかのように見えた捨之介を救ったのが、霧丸です。

 

霧丸は捨之介から鎧を奪いとり、遠くへ投げ捨てました。

捨之介が霧丸に教えてくれたように、今度は霧丸が捨之介に教える番なのです。

刃がきのうに向かっていてはいけない。

明日に向かうべきなのだと────

 

 

最後の決戦でも、霧丸は捨之介を守りました。

捨之介が川からでて丘に上がろうとしたとき、手をさしのべて引き上げたのも霧丸でした。

霧丸がいれば、捨之介はきっと大丈夫。

そんな絆を感じる光景でした。

 

 

 

Season月のテーマ

 

 

「今日がだめでも明日があるさ~

 明日がだめでもあさってがあるさ~」

 

極楽太夫のこのセリフは、一見、軽い演出なのですが、実は月髑髏の根底をつらぬいている重要なテーマだと思います。

 

捨之介が霧丸を諭すセリフ、

劇中歌の「この刃よ明日に向かえ」もそうです。

 

「この刃の切っ先が

 きのうを向くのでは意味ないから」

「この刃よ 明日に向かえ……」

 

過去をふり向かずに前に進め、

と、はげましてくれているのです。

 

兵庫の、

「地獄極楽、紙一重。

 生きていたらそのうちいいこともある」

というセリフも同じでしょう。

 

伊達暁さんが演じる裏切り渡京も、

どんな逆境にあっても実にポジティブで、

「最低?ありがとう!あとは上昇するだけだ!」

などと、前向きなことを言ってくれます。

 

 

悲しいこともたくさん起こる月髑髏ですが、見終わってから妙に晴れ晴れとした気持ちになるのは、このテーマのおかげなのではないかと思います。

 

月髑髏は、たとえ今がどんなにつらくても、前を向いて生きることを全力で応援してくれているのです。

 

上弦と下弦、128回の公演が終了した今、ドクロスに陥って嘆き悲しむ人々に向けたメッセージのような気もします。

 

 

「Season月」は、軽い演出のヴェールをかぶせて、深いメッセージを語りかけてくれる、最高のエンタテイメント作品だと思います。 

 

 

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天魔王のカーテンコール

 

 

1回目の無界屋カーテンコールでは、天魔王はいつも、右手を騎士のように胸にあて、右肩を少し前にして、体を斜めにして立ち、ひざを折るお辞儀をします。

 

頭はさほど下げずに、視線を落とします。

 

どこかの国のカーテシーのようなお辞儀です。

 

表情は変えません。

静かな天魔王、という雰囲気です。

 

 

ところが!

 

千穐楽はちがったのです。

 

視線を落とすと同時に、くちびるの「右端」を上げて、にやりと、あの天魔王の笑みを浮かべたのです!

 

なんだか得意そうに!

 

芝居の最中は、口角の「左端」を上げて嗤うことが多かったので、その違いが目を引きました。

 

もしかすると、体の右側を客席に向けているので、「右端」を上げたのかもしれません。

このほうが観客がよく見えますからね。

 

それに、視線を右斜め下に落とすので、「右端」を上げたほうが絵的に映えるのです。

 

さすが……

 

無意識だったのかもしれませんが、鈴木拡樹さんなら、そこまで考えて演じていそうです。

 

 

最後の最後に、

天の微笑みが見られてうれしかったです

ʕ ❛ᴥ❛ʔฅ~~💓

 

 

 

捨天蘭

 

 

3回目のカーテンコールで宮野真守さんは、「Season月」の大千穐楽にふさわしい、心に残る素敵なあいさつをされました。

 

まず、スタオベしていた観客に、すわるようにと言って配慮してくださいました。

 

宮野さんが語ったのは、

上弦と下弦が誰ひとり欠けることなく千穐楽をむかえることができて、満月になれたという喜び。

たくさんの観客に恵まれたことへの感謝。

LVで全国で見てもらえたことへの感謝など……

 

お話の途中で、なんども、右隣にいる鈴木拡樹さんのほうを向いて、アイコンタクトしていたのが印象的です。

鈴木さんはそのたびに真剣な顔でうなずいていたのですが、あまりに何度もされるので、そのうち笑顔になっていました。

 

そして最後に、「こんな大きな舞台で座長の役割を果たすことができたのは、座組のみんなに支えられたおかげ(大意)」と言って、まず鈴木さんにおじぎをしました。

 

次に、キャストみんなに「出会ってくれてありがとう」と言って、おじぎをします。

 

それから、また鈴木さんにおじぎをし、さらに顔をのぞきこむようにして、「支えてくれてありがとう」と言っていました。

 

その様子には、宮野さんのお人柄の良さがあらわれていたのではないかと思います。

 

座組の仲間として、おたがいに支えあってきた鈴木さんへの感謝の気持ちがこめられていたのではないでしょうか。

 

下弦のチームワークの良さがうかがえました。

 

鈴木さんも恐縮したような顔になって、おじぎを返してから、宮野さんに向かって拍手をおくっていました。

 

 

それから、新感線の千穐楽恒例おせんべいまきがありました。

 

ここで鈴木拡樹さんは、異様な活躍をしたのですが、すでにわたしは2万字ちかく書きつづけてきて、もうこれ以上書く気力がないです……ʕ ˃̣̣̥ᴥ˂̣̣̥ ʔ

 

もし気が向いたら、いつか書きますね……

 

(あの光景を思い出すと、本編の天魔王のイメージが薄れてしまうので、あまり書きたくないような気もします……ʕ;´ᴥ`ʔ)

 

 

キャストが退場していく中で、宮野捨が鈴木天と廣瀬蘭をよびとめました。

 

観客の誰もが、

「宮野真守さんが座長でよかった!」

と思ったであろう、

最高のエンディングのはじまりです……

 

 

無界屋の舞台に残ったのは、

捨天蘭の三人だけ。

 

客席をふり返った三人は、

肩を組んで笑顔を見せました。

 

大きな拍手が沸き起こります。

 

捨天蘭を見るのも、もうこれが最後……

 

三人でエアバンドを組んだり、

踊ったりすることも、

もうないのです……

 

 

すると、

宮野捨がふたりに何かを提案します。

 

すぐにうれしそうにしたのは廣瀬蘭。

 

戸惑うように自分の衣装をしめして、

何か言っているのは鈴木天です。

 

これはもしや……

 

 

向かい風が吹いて、

三人の髪をなびかせます。

 

 

中央に捨之介、

 

下手に天魔王、

 

上手に蘭兵衛……

 

 

華やぐ空気の中、 

 

三人で大見得を切って、

 

拍子木の音!

 

 

(拍手喝采!)

 

 

宮野捨と鈴木天と廣瀬蘭は、

笑顔で去っていきました。

 

 

下弦の月をしめくくるにふさわしい、

最高の大見得でした。

  

 

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あとがき 

 

 

ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。

 

下弦ロスから抜けだすためには、

 

「一度、書き切るしかないんだ……!」(蘭風味)

 

という気持ちで、がんばって書きました。

 

書いても書いても終わらなくて、こんなに時間がかかってしまいました。

 

そして、書き終えた今も、

やっぱりまださみしいです……

 

書ききれなかったこともあるので、また、少しずつブログに書いていこうと思っています。

 

 

新感線さん、

涙をふいて明日に向かうために、

どうか一日も早くBDを出してください!

 

天の声を忘れてしまう前に……ʕ ˃̣̣̥ᴥ˂̣̣̥ ʔ 

 

どうぞよろしくお願い申し上げますʕ -人- ʔ

 

 

それでは、またあした……